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社会保障基本法案の内容と解説(3)

第3章 国及び地方公共団体の実施する社会保障の施策
国及び地方公共団体は憲法13条及び25条の理念を具体化し、すべての者の個人の尊厳に足る生存権を保障すべき責任があることについては、第1章で明確にしたところである。この章では、第1章及び第2章において明確にされた理念ないし原則に基づき、国及び地方公共団体が実施すべき立法や施策の内容がどのような手続により、どのような基準の下で具体化されるべきかを規定するものである。さらには、国及び地方公共団体は、すべての者の基本的人権が保障される社会保障制度を確立するとともに、すべての者の意見が反映され、常に社会保障制度を発展させることが求められているのである。
したがって、国や地方公共団体は、第2章で規定された社会保障におけるすべての者の権利を保障するために必要にして適切な施策を実施するためには、以下の第12条から第18条に規定された内容を誠実に遵守することが求められているのである。

(年金等の所得保障)
第13条 国及び地方公共団体は、すべての者の生活困窮、死亡、老齢、障害、失業、労働災害、所得寡少などの場合に、すべての者の生活の安定を図るため、年金、手当及び公的扶助などの給付により所得保障を行うよう必要な施策を講じなければならない。
2 前項の所得保障は、すべての者の健康で文化的な最低限度の生活を保障する水準のものでなければならず、その給付は適正な手続と情報提供のもとに行われ、かつ給付の過程において、受給者の尊厳にふさわしい処遇が行われなければならない。

 [解説]
(1)用語の定義
ここにいう「生活困窮」は、個人の尊厳が否定ないし奪われたり、健康で文化的な最低限の生活が維持できない状態を示すものであり、さしあたりは生活保護法によってすべての者に保障される保護基準がその目安となるものである。
 また、ここでいう「所得寡少」は、自らの稼働によって健康で文化的な最低限の生活を維持することができない状態であって、第1部で指摘されているワーキングプアと同視されるものである。
 そして、ここでいう「すべての者の生活の安定」とは、健康で文化的な最低限の生活が継続的に維持されることであって、金銭的給付による経済的安定だけでなく、精神的にも不安感を抱くことなく生活できる環境をいうのである。
(2)国及び地方公共団体は、すべての者の生存権を保障するために第1次的には所得保障としての金銭給付を実施しなければならないのであって、その金銭給付は個人の尊厳が実現されるに足る給付でなければならないことを規定するものである。国及び地方公共団体は、経済の変動によって予算に不足が生ずることを根拠として安易に所得保障水準を切り下げることは、この規定によって厳しく戒められることになるのであり、あくまでも最大級の努力によってすべての者の生存権を保障する義務があるのである。

(医療、福祉等の給付)
第14条 国及び地方公共団体は、すべての者の疾病、負傷、分娩、老齢、障害、労働災害などの場合に、すべての者の生活の安定を図るため、医療の給付及び福祉サービスの提供を行うよう必要な施策を講じなければならない。
   この場合、社会的不利を被るものに対する医療や福祉サービスに要する費用は、公費のみによって賄われなければならない。
2 前項の医療等の給付は、すべての者の健康で文化的な最低限度の生活を保障する水準のものでなければならず、その給付は適正な手続と情報提供のもとに行われ、かつ給付の過程において、受給者の尊厳にふさわしい処遇が行われなければならない。

[解説]
ここでは、社会保障給付の中でも、金銭給付以外のいわゆる現物給付についての国や地方公共団体の実施責任とその水準を規定するものである。また、わが国においては、医療とともに介護などの社会福祉サービスは社会保険制度として具体化され、社会保障給付の一内容として位置付けられているが、貧困、老齢、障害、難病その他、社会的不利の立場に立つものについては、その給付に要する費用は公費のみによって賄われるべきとの原則を示している。
医療や社会福祉サービスは、個々人が失業、疾病、あるいは所得寡少によって社会保障制度上の費用負担が困難となり、保険料や窓口での自己負担の支払いができないことを理由に医療を受ける権利が奪われたり、受診を抑制することにつながるような制度運用は、違憲違法な施策として排斥されなければならないことになるのである。そのことは、第10条に規定された社会保障制度における費用負担の減免制度が常に設けられるとともに、減免制度の適正な運用を国や地方公共団体の施策として盛り込まれていなければならないことをも意味するのである。

(住宅保障)
第15条 国及び地方公共団体は、すべての者の居住環境の安定を図るため、必要な住宅を確保し、及び住宅の整備を促進するよう必要な措置を講じなければならない。
2 前項の住宅保障は、すべての者の健康で文化的な最低限度の生活を保障する水準のものでなければならず、その提供は適正な手続と情報提供のもとに行われなければならない。

[解説]
ここでいう「居住環境」とは、個人の尊厳が維持され、プライバシーを含む私生活が第三者から侵害されることなく実現できる住居を中心に、快適で豊かな生活空間を創造し、またそれらを適切に維持管理することができる状態をいう。野宿者が住居を求めている場合に、それが提供されないことは明らかに本条に違反することになるし、劣悪な住居での生活を余儀なくされている人たちもまた生存権としての住宅保障が実現されていないことを意味するのである。

(虐待防止と発達保障)
第16条 国及び地方公共団体は、人間としての尊厳を否定ないし脅かす虐待を防止し、あるいは虐待されている者を救済するための手続きを確立しなければならない。
 2 国及び地方公共団体は、子どもの健全な発育・発達を保障するための施設を設置し、あるいは施策を実施しなければならない。

 [解説]
(1)ここにいう「虐待」は、高齢者の虐待を禁止した「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」第2条4項1号に規定された行為や児童虐待を禁止した「児童虐待の防止等に関する法律」第2条に示された行為にとどまらず、すべての人の尊厳が否定ないし脅かされるような、家族や保護者による暴力や介護の放棄、いやがらせや無視をするなどの行為のすべてを含む概念である。したがって、国籍による差別や障害を理由とする差別によって個人の尊厳が奪われたり、否定される行為も、ときには虐待の一態様として否定されるべき行為に属するのである。虐待防止はその多くの場合いわゆる「社会的弱者」が対象とされることや個人の尊厳を否定ないし脅かす点で生存権保障の一内容としてとらえられなければならないのである。
(2)また、子どもの発達を保障することは、児童福祉の中心ともいうべき内容であって、これもまた生存権保障の一部として位置付けられなければならない。子どもの健全な発達を国や地方公共団体の義務として規定することによって、子どもを保護している者や子どもの発育を支援しようとする者からその実現を国や地方公共団体に請求することが認められる根拠ともなるのである。

(保健事業)
第17条 国及び地方公共団体は、疾病への罹患・拡大を予防する生活・労働環境作り、健診、保健知識の普及、予防接種、機能回復訓練等、必要な保
健事業を実施しなければならない。

 [解説]
ここでは、医療とは別個にすべての者の健康増進を内容とする保健事業の実施責任を規定するものである。保健事業は憲法25条2項の公衆衛生の一内容として位置付けられるものであり、その点から保健もまた社会保障制度の1つとして位置付けることができるのである。したがって、保健の実施にあたってはすべての者の尊厳が保障され、健康で文化的な生活を実現するのにふさわしい内容として実施されなければならないのである。 
 また、今日においては、生活環境、労働条件、労働環境などに由来する健康破壊が進行している。このことへの積極的介入も保健事業として位置づけるべきである。


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