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社会保障基本法案の内容と解説(2)

第2章 社会保障におけるすべての者の権利

この章では日本に居住するすべての者は社会保障の単なる対象者ではなく、権利の主体として社会保障を受ける権利があることを明確にすることをそのねらいとしている。
社会保障給付や社会福祉サービスを要求することがすべての者の権利であり、すべての者は社会保障制度における権利主体であることを確立するためには、以下の3点の解明が課題となる。
①すでに制度化された給付やサービスを受けられない事態が発生した場合の責任は誰にあるのか。また、それを防ぐにはどうすればよいか。
②社会保障制度の改正において給付水準を切り下げたり変更する場合の手続はどうあるべきか。権利主体としてのすべての者はどのような手続によって意見を述べることができるか。そして、国や地方公共団体はすべての者の意見にどの程度拘束されるのか。
③権利が侵害された場合、その回復のためにはどのような手続が必要であり、またその手続保障が十分なものとなっているか。

以上の視点に立ってすべての者の権利を確立するために、以下の6箇条を設ける必要がある。
第7条から第12条に規定された各権利について、そのねらい、言葉の定義、法的効果などを簡単に解説する。

(社会保障におけるすべて者の権利)
第7条 すべての者は、日本国憲法25条1項にいう健康で文化的な最低限度の生活を営むために必要な社会保障の給付を国及び地方公共団体に請求する権利を有する。
2 すべての者は、社会保障の給付を受けるにあたって、憲法13条に基づいて個人として尊重され、その尊厳にふさわしい処遇を受ける権利を有する。

(すべての者の自己決定権と選択の自由)
第8条 すべての者は、健康で文化的な最低限の生活を実現し、自己実現を図るために必要な社会保障給付を自ら選択し、その選択に基づき決定した給付を国及び地方公共団体に対し請求することができる。
2 国及び地方公共団体は、すべての者から請求された社会保障給付をただちに実施できない場合は、その理由を明らかにするとともに、当該請求人と協議のうえ、その請求の給付に代えて当該請求人の求める最も近い給付を提供しなければならない。

[解説] 
 第7条、第8条は、社会保障を享受する主体者たる「すべての者」の権利を改めて明らかにした規定である。本条の内容は、本法第3条、第4条と内容的にはダブっているが、ここでは権利主体から、改めて規定し直している。
 ここでは、社会保障の対象とされるすべての者の権利は憲法13条及び25条によって保障されていることを明確にするとともに、それらの権利が単に受動的なものではなく、権利として国及び地方公共団体に対しその実現を求めることができるものであることを明らかにしようとするものである。すなわち、これまでは憲法25条に基づく生存権保障は、国及び地方公共団体の政治的目標を示すものに過ぎないかのように使われてきたきらいがあり、すべての者が国や地方公共団体に対し積極的に生存権保障を求める権利があるものとしては十分に位置付けられていなかった。憲法25条はそうした消極的な位置づけではなく、すべての者が健康で文化的な生活を実現するために、国や地方公共団体に対し、社会保障給付を求めることができる地位にあることを保障したものであることを改めて明確にしたものである。また、社会保障給付の内容は個人の尊厳が保障されるにふさわしいものでなければならないことをあわせて規定することによって、給付の水準を無限定に切り下げることが許されないことを明確にしようとするものである。
人間は自己実現を図ることによってもっとも人間らしく生きることができるのであって、そのためには自己決定権が保障されていなければならないのであり(憲法13条)、そのことは社会保障給付においてもっとも重要な原理として位置付けられなければならないのである。また、国や地方公共団体はすべての者の主体性を尊重するために、社会保障給付の対象となっている個々人の要求をできるだけ実現させるために努力することが求められているのであり、単に既成の制度に該当しない要求であるとして排斥することは許されないのであって、その要求が妥当なものである限り、その実現に努力しなければならないことを明確にする必要があるのである。

(国の周知徹底義務等)
第9条 国及び地方公共団体は、すべての者に保障されている社会保障給付を周知徹底するため必要十分な広報を実施しなければならない。
2 国及び地方公共団体は、すべての者から相談を受けたときは当該相談者が必要とする社会保障給付の内容及び申請手続きを教示しなければならない。
3 すべての者は、国及び地方公共団体に対し、自ら利用可能な社会保障制度に関する説明を求める権利を有する。
4 すべての者は、国及び地方公共団体から受けた教示及び説明が不十分であったり不正確であったときは、それによって生じた損害の賠償を国及び地方公共団体に請求することができる。

[解説]
 これは、国や地方公共団体に対し社会保障制度の周知徹底義務を規定するものであるが、とりわけ国や地方公共団体に対するいわゆる教示義務と説明義務を規定することによって、すべての者が社会保障給付の利用から阻害されることのないようにしようとするものである。現に、社会保険及び社会福祉サービスの存在や要件を知らされていない者にとっては、そうした国の周知徹底義務、教示義務及び説明義務などが尽くされてはじめて権利を行使する機会が与えられるという関係にようやく立ち至ることができるようになるのである。すでに、ドイツでは、社会法典(SGB=Sozialgesetzbuch)第一編13条〜15条において教示義務や説明義務、あるいは説明を求める権利が社会保障給付の原則として立法化されており、わが国においては判例によって徐々に認められつつある。ここでは、すべての者は、かかる権利を有するとともに、万一、国や地方公共団体によって利用可能な社会保障制度を適切に知らされなかったことによって生存権を保障されなかったときは、損害賠償という形式で事後的に救済されることを実現しようとするものである。

(すべての者の費用負担の減免を求める権利)
第10条 すべての者は、国及び地方公共団体が実施する社会保障給付が有償である場合において、その負担が自らの生活を圧迫するおそれがあるときは、国及び地方公共団体に対しその負担を減額ないし免除することを請求することができる。
2 国及び地方公共団体は、すべての者から前項の減免請求を受けたときは、第三者機関による審査により不相当と判断されない限り減免に応じなければならない。

[解説] 
社会保障制度は常に個々人の生存権を保障するものであるから、常に個別的な事情が十分に考慮されなければならないはずである。社会保障や社会福祉サービスを利用しようとする者に負担能力を超えた費用を負担させることは、そうした者の生存権を奪うものであって、負担の能力の限度額を超えないことが社会保険制度の本質的要請である。したがって、法律や制度によって一律に負担が命ぜられることは、社会保障制度としてはだけでは不十分であるから、常に個々人の事情に即した費用負担の減免制度が保障されなければならないことになるのである。
したがって、国や地方公共団体は社会保障ないし社会福祉サービスを実施する場合、個々人の事情によって負担を軽減するための減免制度を常に準備しておかなければならない。しかもそうした減免制度は、給付の実施機関と対象者という関係から切り離された第三者によって審査する機会を設けることにより、より公平で公正な減免制度を実現することができるのである。ここにいう第三者機関は、そうした目的を実現するのにふさわしい委員によって構成されなければならないことも忘れてはならない。

(すべての者の手続き上の権利)
第11条 国及び地方公共団体は、社会保障給付にかかる法律または条例を制定しあるいは改廃する場合、その給付の対象となるすべての者の利益を代表する者を含む第三者機関の意見を聴取しなければならない。すべての者が受けている給付の内容を変更する場合も同様とする。
2 すべての者は、国及び地方公共団体に対し、社会保障給付の内容に関し意見を述べることができる。国及び地方公共団体は、すべての者の意見を尊重するため、第三者機関によってその意見の正当性を審査し、正当なものであると判断されたときは、速やかに改善のための措置を講じなければならない。
3 前2項の第三者機関は、当該給付の対象となるすべての者の代表者が過半数以上によって構成されていなければならない。

[解説]
 これは社会保障制度において給付の対象者が受動的地位におかれるのではなく、政策過程における参加を保障しようとするものである。また、社会保障制度の硬直化を防ぐためには、常に対象者の意見が反映される制度を準備しておくことが必要であり、またそうした個々人の要求を立法や政策に反映していくためには第三者機関としての審議機関が必要不可欠である。国や地方公共団体はそうした第三者機関の答申を立法化ないし制度化することを義務付けられる。

(独立の救済機関の設置・法律扶助)
第12条 すべての者は、国及び地方公共団体が社会保障給付の請求を拒否しまたは給付内容を不利に変更したときは、6ヶ月内に国及び地方公共団体から独立した救済機関に対し審査請求を申し立てることができる。社会保障給付の実施主体が民間事業者であっても、それが公的資金によって運用され、あるいは公的資金から報酬等を受けている場合も同様とする。
2 国及び地方公共団体は、すべての者が前項の審査請求及び訴訟を提起しようとする場合、弁護士またはそれに代わる相当な資格を有する者に相談し、さらには争訟を依頼するための費用を援助しなければならない。

[解説]
 本条では、社会保障給付の請求を拒否された場合、従来の行政機関に対する不服申し立て→訴訟の提起に加え、迅速な救済を目的とする独立救済機関の設置を求めている。ここで考えられている「独立した救済機関」は、独立行政委員会であり、すべての者は、請求を拒否されたり給付内容の変更を受けた場合、行政機関に対する不服申し立てを行ない、申し立てが認められなかった場合には、この独立行政委員会に審査請求ができる。
 権利が侵害され、あるいは権利を実現するためには、常に当該制度における権利救済にふさわしい争訟手続が幾重にも保障されていなければならない。なぜならば、国や地方公共団体は常に正しいとは限らないし、個々人の要求を正確ないし適格に把握しているとは限らないからである。いいかえれば、すべての者は争訟手続によって社会保障給付が実現されるからこそ、はじめてそれが権利と呼べるのである。
 また、本条第二項は、審査請求や訴訟の提起に際して、法律扶助を求めることができることを定めた規定である。争訟手続を自ら単独で行使することは容易なことではない。そこには専門的知識が必要とされたり、専門家による支援が不可欠となるのである。そのためには当然に手数料等の報酬が伴うこととなるから、そうした費用面での支援もあわせて保障されなければ、争訟権は保障されたことにはならないのである。


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