「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

16 Nov

 11月6日は石川県でカニ漁解禁の日でした。

 翌日7日スーパーに入った途端、カニをゆでた匂いが店中に充満していました。カニといっても石川県では「香箱(こうばこ)ガニ」と呼ばれているメスのカニが主に店頭にずらりと並び、それを買って食べるのを皆さん楽しみにしています。メスのカニは小さいのですが卵やカニ味噌、身すべてを味わうことができ、カニの味が濃縮されていると言ってもよいほどです。でも、カニが出回るということは、確実に寒い冬に向かっているということでもあります。「また雪が降る時季になったのか・・・」とため息交じりの声もちらほらと聞こえてきます。融雪装置のついている道路では、装置の点検が始まりました。

 

 さて今回は、生活保護における自立とはどういうことなのか、大阪府大東市の指導指示の話を基に私なりに考えてみました。

 

 10月に新聞などで取り上げられたもので、5人家族の長男が高校卒業後家を出て新たな生活を始めたところ、「家を出ずに収入を家に入れなさい」という指導指示文書が福祉事務所長名で出され、相談を受けた弁護士が人権侵害であることを指摘し、撤回したというものです。

 

 この記事を読んですぐに10年ほど前に生活保護のケースワーカーをしていた方に聞いた話を思い出し、その話と同じようなことがまだ繰り返されているのかとびっくりしました。その話とは、高校を卒業して働きながら看護学校に通い、看護師になりたいという母子世帯の娘さんがおり、ケース診断時に別のケースワーカーが娘さんにすぐに働きなさいと意見を出したというものでした。元ケースワーカーの方は「それはおかしい、看護師になれば生活も安定し、その娘さんにとっても希望がかなえられ、自活していく意欲になる」と話したのですが、結局は働きなさいという結論になり、やるせない気持ちになったとのことです。

 

そのケースワーカーが現役で生活保護業務に携わっていたときですから、10年以上前のはるか昔の話です。でもそのような話が現在も繰り返されているのです。弁護士が指摘しているように、これは人権侵害だと思います。憲法で保障されている職業選択の自由、移動の自由、幸福権の追求など、法の下では平等に保障されるべき権利が生活保護制度を利用している世帯には保障されないということになるのです。これではイギリスの救貧法時代に逆戻りです。貧困を解決する為の社会保障制度が、彼を制度に拘束することによっていつまでも貧困から抜け出せないという本末転倒なことが起こるのです。

 

それと、福祉事務所の指導指示の基となっているであろう根拠は、生活保護法第10条「世帯単位の原則」と思われます。この原則は、基本的には親子の核家族世帯が世界的な主流となっているが戦後家族制度が崩壊した日本では現実には親子以外の世帯員が生活していること、家族全員が貧困に陥っているのに子どもと高齢者しか保護しないという戦前の救護法の個人単位の保護の在り方のほうがおかしい、という根拠に基づいて作られた原則です。子の原則には但し書きがあり、世帯単位によらないときは個人単位での保護を認めるというものです。世帯員が入院している、働いて別世帯となっているなど生計を同一にしているとは言えないときは世帯単位の原則は適用しないというものです。小山進次郎が書いた古い解説書を読んでも、大東市の件は原則の適用にはならないでしょう。

 

こう考えると、大東市の指導指示は単に生活保護費を削減するためのものでしかなかったと思われます。しかし、この指導指示がそのまま受け取られていれば、一人の人間の、憲法で保障された権利が行使されず、自分が描いていた人生をあきらめざるを得なかったかもしれません。私たちの生活は、資本主義経済が続く限りこの大枠から逸脱することはおそらく不可能でしょう。しかしながら、その中で自分なりに生活を築き上げていくことが生きていく力になります。世帯の経済的困窮を軽減することに固執して、一人一人が自分なりの生活を築いていく力を削ぐようなことがあれば、それは世帯にとっても本当の自立とはなりえないと、私は思います。

 

元金沢星稜大学非常勤講師 冨家 貴子