「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

13 Feb

 「生活保護世帯がプリペイドカードで買い物!?」。

 報道を初めて聞いてびっくりしました。これをモデル事業としたい大阪市は何を考えているのか・・・。

 

 朝日新聞、毎日新聞によると、これは生活扶助費のうち飲食や日用品の購入などを目的とする費用月3万円をプリペイドカードで支給し、福祉事務所が収支管理することで自立支援を促すというものです。大阪市の発表によると、2千世帯の利用を目標に今年2月から希望者を募り、半年から1年程度実施するというもので、大阪市が富士通総研と三井住友カードの事業提案を採用したものとされます。(1)これに対して各方面で反対運動や交渉が起こっています。

 

 この問題点は大きく分けて2つ考えられます。

 

 一つは、官制による貧困ビジネスの展開という点です。「ハーバービジネスオンライン」によると、「生活保護受給者の自立を支援する」ことを大義名分として宿泊施設を提供する代わりに生活保護費を全額預かり、わずかな小遣いしか渡さないなどとする貧困ビジネスと同じ手法だと指摘されています。仮に平成25年度の大阪市の生活扶助費1000億円分がプリペイドカード支給されると、この事業を提案した一企業である三井住友カードには1年で1000億円の預託金が入り、カード決済手数料が仮に1%とすれば1年に10億円が入り、更にプリペイドカードの入金手数料を仮に200円とすると1年に2億8千万円が入る、つまり預託金だけでなく巨額の手数料収入を得ることになるとされます。(2)

 

 NTTデータのホームページによりますと、アメリカ合衆国では既に児童手当や災害手当といった各種給付がVisaプリペイドによって給付されていることを取り上げ、今回のモデル事業を通じて全国の自治体への展開を図り、公的分野における電子決済の利用拡大を含むキャッシュレス決済の普及を目指すとされています。(3)

 

 このように、大阪市のモデル事業は、公的分野における金銭給付施策をビジネスチャンスにする足がかりとなるのです。前述の指摘の通り、まさに公的機関公認の官制貧困ビジネスそのものです。また、本来公的機関が管理しなければならない個人情報を民間企業が管理することになり、個人情報保護の観点からも重大な問題です。

 

 もう一つは、生活保護世帯の金銭使途の自由を奪うという点です。先ほどのNTTデータのホームページによりますと、買い物はVisaカード加盟店やインターネット販売でカード決済ができるところが想定されています。しかし、日本はカード社会ではないので、日常の買い物はそのような所ばかりではありません。むしろカード決済のないところが多数です。私たちが日常行っている商店を思い浮かべるとどれだけ買い物場所が限定されるか想像がつくかと思います。プリペイドカードの利用は生活保護世帯だけ買い物場所が限定されるということになり、買い物場所の自由を奪うだけでなく、劣等処遇を行うことにつながるものです。

 

 金銭使途の自由というとき、私は1993年に秋田地方裁判所で判決が下された「保護変更処分取消等請求事件」、いわゆる「塩サバ事件」を思い出します。劣悪な住居にすむ傷病を抱える夫婦が将来のことを考えて塩サバ一切れを夫婦で分けて食べ、節約に節約を重ねて貯めた生活保護費を福祉事務所が収入認定としたことを不服として起こした訴訟です。判決は原告勝訴となりました。判決文では、生活保護世帯では臨時的な出費に対応する一時扶助が極めて制限されていることから、生活の広範な場面で預貯金が必要になることが述べられている他、金銭使途の自由についてその意義も述べられています。少し長いですが判決文を引用します。「憲法二五条でいう健康で文化的な最低限度の生活とは、人間の尊厳にふさわしい生活を意味する。人間の尊厳にふさわしい生活は、自らの生活や行動の仕方を自らの自由な意思により決定できるものでなければならず、その意味で、保護費の消費は、明らかに浪費的でない限り、被保護者の自由に委ねられることが要求される(保護費消費自由の原則)。生活保護制度において扶助の方式が金銭給付であるのもこれを担保するものである。また、保護費消費自由の原則は幸福追求の権利を保障した憲法一三条にも根拠を有するものである」。(4)このように、金銭使途の自由は憲法13条と25条にもとづくものです。つまり、判例にみられるように、金銭で持ってどこで何を買うかは原則自由であり、それは憲法によって保障されているのです。

 

 大阪市はプリペイドカード使用によって生活保護世帯の家計管理・支援を行うとしており、インターネット投票ではプリペイドカード使用が妥当だという意見が一部見られますが、官制貧困ビジネスのもとで人間の生活の在り方そのものを拘束してしまうという憲法に抵触する重大な問題点を含むものなのです。

 

元金沢星稜大学非常勤講師 冨家 貴子

 

 

(1)「生活保護費の一部をプリペイドカードで支給へ 大阪市」朝日新聞デジタル2014年12月27日 http://www.asahi.com/articles/ASGDV5GKDGDVPTIL01J.html 2015年1月25日閲覧

「生活保護費:一部プリペイドで支給、橋下市長に撤回求める」毎日新聞デジタル版2015年1月8日 http://mainichi.jp/select/news/20150109k0000m040043000c.html 2015年1月25日閲覧

(2)「大阪市の『プリペイドカードによる生活保護費支給』は官制貧困ビジネス」HARBOR BUISINESS Online 2014年12月29日 http://hbol.jp/19160 2015年1月25日閲覧   

(3)「国内初!公的給付にVisaプリペイドカードを活用するソリューションの提供開始~第一弾として大阪市が生活扶助費支給のモデル事業に採用~」(株)NTTデータホームページ2014年12月26日

  http://www.nttdata.com/jp/ja/news/release/2014/122600.html 2015年1月25日閲覧

(4)「平成2(行ウ)1 保護変更処分取消等請求事件」判決文、秋田地方裁判所、1993年4月23日