「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

03 Jul

  先日、雑誌論文の学習会に出席しました。

 アフリカ経済という、今まで全く知らなかった分野でした。なぜ昔のヨーロッパの人たちはアフリカ大陸の国々を植民地とせずに交易を行ったのか、奴隷貿易について、そして、現在のアフリカ大陸の国々の発展の仕方はどのようなものかなど、論文を書いた研究者の方の設問に「なるほどなあ」と思ったものでした。

 

 さて、今回は、2013年から始まった生活扶助基準削減について、その基となった資料の妥当性が疑われていることを、上藤一郎氏の「厚生労働省の生活扶助相当CPIをめぐる一考察」という論文を使って取り上げたいと思います。

 

 最近「証拠(エビデンス)」という言葉をよく耳にしますが、政策立案についても事実証拠に基づいて行わなければならないことが指摘され、日本の場合は「「客観性に疑問のある『データ』を作り出して国民を『説得』しようとする態度」が未だに看て取れる」と前置きし、厚生労働省の生活扶助相当CPIは事実証拠となりうるのかを検証されています。

 

 結論からいうと、統計学の「学説からみても異例なCPI」とのことです。統計学の学説からみると、CPIについては「同一品目の価格変化を追うことによって、物価変動という経済現象の統計的認識が可能である」とされています。ところが、厚生労働省は異なった品目の価格の比較を行っており、統計学上「想定外の操作」を行っているとのことです。

 

それは、①厚生労働省は2008年と2011年との生活扶助相当CPIを比較しているが、2008年と2009年では比較する品目が違っている、また、生活扶助相当以外の品目は明らかにしているが、では生活扶助相当の品目とは何なのか具体的に明らかにしていない、②生活扶助相当CPIが統計局の出したCPIと大きくかけ離れていること、筆者が再計算した統計局の生活扶助相当CPIでは物価下落率は2.26%であり、厚生労働省が主張する4.78%とは大きくかい離している、という点です。

 

そして、そのような信憑性に欠ける生活扶助相当CPIを実際に使用したという事実、しかも年金の物価スライドの際は「通常の計算方式」で求めたCPIであり、生活扶助基準に使用したものと全く違うこと、また、厚生労働省は生活扶助相当CPIを妥当としながらも、それが統計学的根拠のないものであると述べていることを指摘しています。統計局のCPIを使用しなかった理由についても触れていないとのことです。

 

上藤一郎氏は「学術的根拠の有無に拘わらず、法律上の拘束さえなければ、どのような算式を用いようと、またそれを実際の施策にどのように利用しようと問題はない、ということにならざるを得ない」と述べていますが、本当にその通りだと思いました。

 

私は統計学については詳しくないのですが、論文を読んで、統計学の専門家からみて「異例なCPI」に基づいて生活扶助基準削減を行っていることが明らかになっているのだと思いました。

 

私は、生活扶助基準を含めた生活保護基準は、国会の承認を得るべきではないかと考えていたのですが、この論文を読んで、国会の承認以前に問題がはばかっている、単に国会を通せばいいというものではないことを痛感しました。計算された根拠が根拠たるものかまで精査しなければならないということを教えられました。

 

元金沢星稜大学非常勤講師 冨家 貴子

 

引用文献:上藤一郎「厚生労働省の生活扶助相当CPIをめぐる一考察」『統計学』No.106、経済統計学会、2014年、p1-pp16