「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

05 Jun

 この間、芸人の家族が生活保護を利用しているという話題で持ちきりでした。

  私も「えっ?」と心の中で驚きながら、事情を調べました。その芸人の方は、売れるまでは収入が90万円を切っており、収入が増えだしてからは、福祉事務所と相談して仕送り額を決めていました。その方自身に持病があることもあり、常に福祉事務所と仕送り額をどうするか相談していたそうです。

 

調べた後、どこに問題があるのか、正直よく分かりませんでした。福祉事務所が事情を知って関与していたのですから。むしろ、その方の収入が90万円を切っていたときには、最低生活基準を下回っていたこと(住宅扶助も含む)のほうが問題だと思いました。

 

以前、扶養義務について書きましたが、生活保護ケースワーカーのためのセミナーに参加したときに、現役の生活保護ケースワーカーの方が「扶養は『義務』ではなく『優先』」と話しておられました。親子間の扶養というのは、親から子への扶養が問題となります。しかし、親から虐待を受けていたなど、親子関係を考えると、親からの扶養を受けることが本人にとって本当によい事なのかという問題も出てきます。親から子への扶養といっても、単純には考えられないのです。生活保護の最大の課題は、補足性の原理をいかに緩めていくかにあるのですが、扶養の問題も、その方向に向かっての「優先」という位置づけなのだと思います。

 

このことよりも「何じゃこりゃ!?」ともっと驚いた問題があります。この芸人の方の話がマスコミに取り上げられてから、国会では、厚生労働大臣が「生活保護基準の引き下げ」を考えていることを明らかにしたからです。

 

これは、「国家戦略会議」で、国家戦略の一つとして厚生労働省として「生活支援戦略」をどうするのか、その骨子に書かれているものです。[i]

 

生活に困窮し、生活保護を利用する方が増えてきていること、特に働く世代の利用が増えていることから、ハローワークとの連携の強化、法律内に就労自立支援制度を盛り込むことなどが書かれています。それらに併せて、一般低所得世帯との消費実態の検証を行い、また、就労・社会的自立を促進するために生活保護基準を見直す、指導の強化としての扶養義務の再検討、医療機関に対する指導等が取り上げられています。

 

 何度も書いてきましたが、働く世代の生活保護利用が増えた大きな要因は「非正規雇用」が拡大してきたことによるものです。1989年に労働者派遣法を「改正」し、派遣労働者の範囲を大幅に認めたのが始まりです。それまでは、一部を除き禁止されていました。戦前も「口入屋」などと呼ばれる派遣業が存在しました。派遣業というのは、派遣元が労働者の賃金を中間搾取することから、戦後、禁止されたものなのです。

 

 本来なら、この「非正規雇用」の問題を解決しないと何も解決しないのです。低賃金で働かされ、雇用の調整弁としていつでも切り捨てられてしまう、そうなると、日本のあまりにもお粗末な労働者の生活保障制度は役に立たず、利用できるのは生活保護制度しかないのです。

 

 この骨子には、生活保護制度の一番重要な役割である「健康で文化的な最低限度の」生活を保障する、という概念が全く見当たりません。生活保護基準を見直すことで生活保護利用者を削減していくことが大きな狙いなのです。低所得層が増加して生活が困窮しているのに、それに合わせて生活保護基準も削減していくと、すべての国民が保障される最低限度の生活はますます引き下がっていきます。「貧困」であるとみなされてきたことが、「貧困」とみなされなくなります。この見直しは、「貧困」を国家が隠ぺいするものでしかありません。

 

 それにしても、私にはどうしても分からないことがあります。最初の話に戻りますが、なぜ福祉事務所が適切に処理していることを、誰がわざわざスクープとして取り上げたのかということです。それと、この「生活保護基準引き下げ」発言の、あまりのタイミングの良さです。私には、この芸人の方が生活保護基準引き下げを含む「生活支援戦略」骨子を国民に納得させるための「宣伝」に使われたとしか思えないのです。

 

元金沢星稜大学非常勤講師 冨家 貴子



[i] 2012年6月4日、国家戦略会議に資料として提出された。