「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

07 May

 ゴールデンウイークはいかがお過ごしだったでしょうか。

 

私はゴールデンウイークとは関係なく仕事をしていました。テレビを観ていて、帰省ラッシュとか、海外旅行からの帰国ラッシュとか、違う世界のように感じていました。

 

さて、46日、厚生労働省は、生活保護制度を利用している人が働いて得た収入について、その一部に相当する保護費を積み立てておき、生活保護制度を利用しなくなったときの生活費に充てる「就労収入積み立て制度」(仮称)を創設すると発表しました。そして、423日には、生活保護利用者の急増のため制度からの自立を促し、また、不正受給対策を強化するため、来年の通常国会に生活保護法改正案を提出すると発表しました。この改正案の中に、前述の制度も盛り込むのではないかと思われます。

 

 現行の制度では、働いて得た収入があると、一定額を控除する制度があり、それは「勤労控除」の中の「基礎控除」というものです。現行の制度では、控除された収入の使途は特に限定されていません。働くことへのインセンティブを持たせる意味合いがあるのだと思われます。

 

しかし、今回新設を考えている「就労収入積み立て制度」(仮称)は、まだ具体的なことは分かりませんのであくまで推測にすぎませんが、現在の控除制度で控除された収入の一部も積み立てに回すのではないかと思っています。

 

 生活保護制度を利用しなくなった時の生活費に充てるということですが、疑問点もいくつか浮かびました。これから検討するということですので、厚生労働省の議論でも同じような疑問点がでると思われますが、簡単に述べてみたいと思います。

 

 一点目は、毎月どの程度の金額を積み立てておくのか、ということです。現在の基礎控除の金額を積み立てていくとなると、これは積み立ての強制ともなってしまいます。また、毎月の生活保護費を引き下げられるのと同じことにもなります。それ以上の金額を積み立てていかなければならないのではないかと思われます。また、収入は人それぞれです。一律の金額設定にはならないのではないかと思われます。

 

 二点目は、その積立金を誰が管理するのか、ということです。現行では、生活保護費の管理は個々人に任せられています。これを行政が行うとなると、仕事量が膨大になってしまうと考えられます。

 

 三点目は、積立が何らかの理由でできなかった場合どうなるのか、という点です。何らかのペナルティが課せられるのでしょうか。ペナルティの内容が生活保護費の一定額の減額であったりすると、生活保護制度は、「最低生活保障」というものではなくなります。制度の根幹にかかわる問題です。

 

 四点目は、自立を促進するため、と述べていますが、自立できないことが生活保護利用者の個人責任に帰せられている、ということです。資本主義社会では、働いて得た収入で生活することが基本です。しかし、近年非正規雇用の増大で、働いた収入だけでは生活できない、という方が非常に増えています。また、非正規雇用ということで、雇用の調整弁として、簡単に労働者を切り捨てていくことが横行しています。本来なら、このような重大な問題を解決するのが先決だと思われます。安定した雇用と収入があれば、働きつつ生活保護制度を利用している人の生活保護からの自立は容易に進むはずです。生活保護費で生活していくほうが大変です。

 

 五点目は、積み立てても、自立できるような雇用と収入が実際にあるのか、ということです。実際にそのような雇用がないから、働きながら生活保護制度を利用せざるを得なくなっているのです。

 

 いくつか述べましたが、このような状況を考えたとき、昔のイギリスを思い出します。1718世紀ごろ、イギリスのスピーナムランドという所では、働いても公的扶助の基準以下の世帯には、パンを支給していました。それを見た事業主は、行政が支援してくれるなら、賃金を引き下げても大丈夫じゃないかと考え、賃金の引き下げが行われました。このようなことがあり、この制度は短命に終わってしまった、という歴史があります。働いても生活できないから、働きながら生活保護を利用するという今の日本と、この当時のイギリスと、どれほどの違いがあるのかと考えてしまいます。

 

元金沢星稜大学非常勤講師 冨家 貴子