「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

07 Jul

  ある大学の先生と話をしていたとき、「日本の気候は熱帯雨林気候になった」とおっしゃっていました。

 

振り返ると、5月には早くも台風がやってき、梅雨に入るころになるとスコールのような雨が降ってはピタッと止み、6月で気温はす30度を超しています。このまま7月8月になるとどうなるのか、想像もつきません。しかし、地球温暖化は確実に目に見えてきているなと思いました。

 

 さて、ずいぶん前に大阪府・大阪市の生活保護改革の提言を紹介しましたが、本格的に国と地方が生活保護制度について協議を持つことになりました。これは、社会保障制度改革の議論の各論であり、最後の受け皿の議論ともいうべきものでしょう。その内容に少し触れていきたいと思います。

 

 協議を持つ一番の大きなきっかけは、昨今の不況で、働ける年齢層(以下、「稼働層」といいます)の方の生活保護利用が急増し、自治体の生活保護費負担が重くなったことが背景にあります(現在、生活保護費の負担割合は、国が100分の75、地方自治体が100分の25とされています)。

 

 「生活保護制度の国と地方の協議」第1回資料(2011年5月30日)を読むと、生活保護利用世帯が増えたことよりも、その中でも稼働層が増えたことが大いに問題だという風に読み取れました。日本の生活保護制度の特徴を少し述べますと、生活保護世帯構成は高齢者世帯、ひとり親世帯が多く、稼働層は非常に少ないのが特徴です。これは、欧米の生活保護世帯構成とは全く異なります。欧米では、稼働層の利用世帯が多いのが一般的で、高齢者世帯は少数です。欧米では生活できる年金が確立していること、稼働層は、失業保険(受給期間は数年と、日本より非常に長いです)が切れた後に生活保護を利用するという形をとっています。日本は、高齢者の最低生活年金が確立しておらず、また、稼働層を生活保護から排除してきた歴史的経緯があります。それが日本の生活保護世帯構成の特異性を表しています。

 

 それゆえ、稼働層の生活保護利用世帯が増えたことは、今までの生活保護世帯構成からしても驚くべき変化と捉えられているのです。そこで、生活保護制度を見直さなければならないと、一部自治体が様々な提言を厚生労働省に提出しています。

 

その主要な内容は、ハローワークと福祉事務所が連携し、就職につなぐよう支援していくなど、自立(「生活保護制度の国と地方の協議」第1回資料においては、「経済的自立」を指しています)支援を行い、働けるものは働くようにしていく、というものです。いわゆるトランポリンの政策、「welfare to workfare」の日本版です。これらの実現のため、生活保護法自体を「見直し」しなければならないとされています。

 

 ここまで読んで、一つ疑問が浮かびました。日本は資本主義社会です。資本主義社会では、人々は働いて賃金を得ることが生活の前提となります。今回の稼働層の生活保護利用の急増は、その前提が崩れてしまったことが原因です。つまり、主に不況により、働いて賃金を得ることができなくなったのです。だから生活保護を利用するに至ったのです。ですので、本来なら前提である雇用のありかたを見直す対象にしなければならないのです。真っ先に雇用から切り離された方は、派遣労働の方です。ならば、派遣労働自体を見直さなければならないのです。しかし、今回の「生活保護制度の国と地方の協議」第1回資料では、そのことにはまったく触れられていません。現在の雇用のありかたを見直さないまま、「経済的自立」と称して労働市場に人々を返しても、再び生活保護を利用せざるを得なくなる状況は全く変わりません。しかも、資料ではどの年代の稼働層の生活保護利用が急増しているのか明らかにしていません。現在の日本では、年齢が高ければ高いほど就職先が非常に少なくなっています。すると、また違う雇用対策を打ち出さなければなりません。そしてもう一つ、労働市場に返したとしても、その労働で最低生活が保障されるのかは不明なのです。

 

 この「welfare to workfare」政策は、イギリスのブレア元首相のブレーンであったアンソニー・ギデンズという社会学者が唱えましたが、ヨーロッパの研究者によって既に上述のような批判は行われていますし、日本の研究者の方も批判しておられます。

 

 では、こんな提言をしても意味がないではないかと思われますが、この先に大きな意図があります。すでに新聞などでお読みになった方はお分かりでしょうが、有期保護、期限を限った生活保護制度を導入しようという意図があるのです。

 

 東日本大震災による混乱の裏で、密かにこのようなことが企図されていることに驚きましたし、注意を払わなければならないと思いました。

 

              元金沢星稜大学非常勤講師 冨家 貴子