「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

07 Jun

  最近、昼は夏みたいに暑くなったと思ったら、夜は秋みたいに涼しくなるなど、気候の変動を非常に激しく感じます

                                                                   

私の体もだんだんと年をとり、この変動についていけなくなってきました。すぐに疲労として現れます。あるファッション雑誌によると、私の年齢はちょうど老化の曲がり角みたいで、いろいろと兆候が書いてあるのを見てショックでした。人の名前が思い出せないとか書いてありましたが、そんなことはすでに日常茶飯事となっています。

 

 最近、生活保護法が密室協議で「改正」されようとしており、生活保護基準も見直しの検討会が開かれています。これはこれで問題として取り上げるべきものなのですが、今回は、先月に引き続き、生活保護の改善にはどのような動きがあったのかを様々な角度からみていきたいと思います。

 

 今回取り上げるのは、子どもの高校進学のために学資保険の保険料を毎月の生活保護費から捻出し、それを収入認定扱いされたことに対して裁判で争った、いわゆる「中嶋学資保険訴訟」を取り上げたいと思います。

 

 結論からいえば、最高裁判決で原告勝訴、つまり、学資保険として積み立てた生活保護費は収入認定扱いとはしないという福岡高裁判決を支持する判決が出されました。

 

 この裁判はいくつかの非常に大きな意義を持っていると思います。私が感じたことを以下にまとめました。

 

 一つ目に、生活保護費の使途については原則として自由であるということです。月々の生活保護費は、「健康で文化的」であるかの是非はともかく、最低限必要な金額が算定されています。私たちの生活は、その時々の社会における生活様式に拘束されます。例えば、昔は携帯電話がありませんでしたが、今では携帯電話は持っているのが当たり前になっており、それを前提とした生活になっています。何気なく使用している電気・ガス・水道も、今ではそれが無ければ生活できません。「ライフライン」と言われるほど生活に根付いています。そして、それらの費用を捻出しないと生活が成り立たない、または社会関係に支障が出てきます。そのように生活の一定の枠組みがありながら、実際の生活は、世帯によって家族構成や生活習慣などが違います。すると、何に支出するかは世帯によって異なってきます。生活保護費の使途に一定の枠組みがありつつも、それぞれの世帯の状況に合わせて自由に使用できる部分もなければ、その世帯の生活というのは成り立たないのです。

 

 二つ目に、補足性の原理が緩和されたということです。私たちの社会は自己責任が原則の社会ですので、生活保護を利用する前に、生活の糧になるものがあるのなら、それを優先して使うことが求められます。子どもの進学のための保険であっても、子どもの進学を犠牲にしてまず生活費に当てなさいというのが通例でした。それが、子どもの進学のための保険であれば、生活保護を利用する前に使わなくてもよい、子どものために使ってもよいということになったのです。生活保護を利用する要件が緩和されたのです。

 

 三つ目に、二つ目の補足性の原理の緩和は、生活保護を利用している世帯の子どもの教育を受ける権利、ここでは高校教育を受ける権利を認めたということになります。そもそも高校進学にかかる費用を国が無償化していれば、このような問題は起きなかったのですが、すべての子どもに認められている高校教育を受ける権利が生活保護を利用している世帯だけ認められない、という矛盾が露呈されました(進学しようと思えば、その子どもだけ世帯分離し、保護は廃止となり、アルバイトをしたり奨学金を借りるなどして自分で生活を営みながら学費も稼ぐということになります)。厚生労働省はこの判決を受け、生活保護世帯の子どもの高校進学を認めました。しかし、教育を受ける権利を認めたのではなく、働いて自立するための手段として認めた、つまり教育扶助ではなく生業扶助として認めたことは、問題として残っています。

 

  生活保護の運用は、厚生労働省(厚生省)内で議論され改善されたり、地方自治体からの声を基に改善されたり、その時々によってさまざまな形で改善されていますが、裁判によって、学資保険は収入認定から除外し、生活保護世帯の子どもには義務教育しか認められていなかったのを高校教育まで認めるよう運用を変えたことも知っていただければと思います。しかしながら、逆の見方をすれば、裁判を起こさなければならないほど、日本の生活保護の運用の改善というのは厳しいといえるのではないかとも思いました。

 

                                元金沢星稜大学非常勤講師 冨家 貴子