「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

10 May

 ここ北陸地方にもようやく春がやってきました。といっても、春に3日続きの天気はなく、晴れ間が見えて暑くなったと思ったら、雨が降って薄ら寒くなることの繰り返しです。

 そんな中、今回はどのようなことを発信しようかと考えながら、あるゼミナールに参加させてもらいました。アカデミックな場に身を置くと、何を主眼に論述したらよいのか非常に勉強になりました。

近年、財政難などによって高齢者や障がいを持つ方などに年1~数回給付される地方自治体独自の福祉的給付金が廃止されたり、減額されたりしていますが、各地で創設されたとき、自治体関係者はすべての対象者にもれなく行き渡るよう意気込んでいました。しかし、その前に立ちはだかった問題がありました。それは生活保護利用者に給付する場合、「収入」とみなされ、生活保護費がその分減額されるため、実質的には給付しないのと同じ扱いになってしまうことでした。この状態が1968(昭和43)年度まで続きました。
 
1969年3月31日、全国の地方自治体は厚生省に、1969(昭和44)年度予算編成で生活保護世帯にも福祉的給付金を給付したいが、収入認定されてしまうので、収入認定しないよう要望しました。[i]
 
それを受けた厚生省は、1969年5月1日、4月にさかのぼって一人月2,000円までは収入としてみなさないという旨の通知を出し、地方自治体独自の福祉的給付金は生活保護利用世帯にも行き渡ることとなりました。
 
もう少し詳しく見ていきますと、1960年代後半は、高度経済成長期の最中にあり、地方自治体の予算も充実し、福祉的給付金制度が急速に全国的に広がっていったという時代背景があります。1969年2月、厚生省は全国主管課長会議を開催し、福祉的給付金の問題については前向きに検討すると回答し、各都道府県に福祉的給付金の実態調査を依頼しました。その集計結果が出されたのが4月半ばでした。結果は、心身障がい児(者)福祉手当を実施している自治体が一番多く、次いで高齢者対象の手当、児童手当、母子手当、多子手当、交通遺児手当等、奨学金制度となっていました。
 
そして厚生省は、①都道府県・市においては過半数の自治体が何らかの福祉的給付金を実施しており、②これからも福祉的給付金を実施する地方自治体は増加が見込まれる、③これらの給付は高齢者、心身障がい児(者)、母子世帯、多子世帯など社会的弱者のための、地域による励まし等の趣旨を持つものが大半で、日々の衣食住を補てんする趣旨のものではない、④これらの給付額はごく少数を除いて一か月当たり2,000円以下である、ことを基礎に置いて検討しました。検討の結果、地方自治体の福祉的給付金制度は、国の福祉政策の発展のために必要なものであり、それを国が摘み取ってしまうような方針は採るべきでないと結論を出したのです。そして、①心身障がい児(者)福祉手当②高齢者対象の手当③母子手当④多子手当⑤交通遺児手当⑥これらに準ずる手当の6つの手当については、収入として取り扱わない(以下、収入認定除外という)こととしたのでした。
 
この収入認定除外は、大きな意味を持ちます。一つは、実質的に最低生活保障の引き上げとなること、二つは、実質的に生活保護法第4条「補足性の原理」を緩和したことです。生活保護制度は、他法他施策や預貯金等財産、働く能力など、あらゆるものを活用してもなおかつ生活保護基準に満たない場合に生活保護が適用されます。これを「補足性の原理」といいます。この原理通りに解釈すると、福祉的給付金は条例に定められた他施策に当たり、これを生活保護に先立って活用することが求められますので、収入として取扱い、生活保護費から金額分を差し引くことになります。この当時の厚生省はこの解釈を、①生活保護本来の趣旨である「人間の尊厳を保つにふさわしい生活」の保障からみると、生活保護利用者だけが福祉的給付金を給付しないのと同じ扱いになることは、生活保護法本来の目的に反する、②生活保護基準には、精神的な面も含めた福祉的な需要は含まれていないので、補足性の原理に反するものではないと再解釈したのでした。[ii]
 
以前地方自治体が公害被害者に対して国が支払った一時金を収入認定してしまったことを取り上げましたが、このように、地方自治体が収入認定からはずしてほしいと訴えた歴史があることも知っていただければと思います。
 
元金沢星稜大学非常勤講師 冨家 貴子


[i] 日本福祉文化学会監修、河畠修・厚美薫・島村節子『増補 高齢者生活年表一九二五-二〇〇〇』日本エディターズスクール出版部、2001年、p51参照
[ii] 厚生省保護課「生活保護掲示板 地方公共団体の福祉的給付金の取扱いについて」『生活と福祉』第158号、1969年6月、全国社会福祉協議会、p12-14参照