「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

06 Jan

 高齢者と話していると、必ず戦争の話が出てきます。金沢市は空襲がなかったそうですが、

大阪にいる母親の話によると、母方の祖父母は大阪市内で空襲に遭い、現在住んでいる所に疎開してきたそうです。その大阪市内、特に大阪城周辺は大阪砲兵工廠があったので空襲による被害がひどく、今でも不発弾が出てきます。年に1回ほど、不発弾処理のために京阪電車やJR環状線が一時動かなくなるときがあります。JR環状線の京橋駅から森ノ宮駅の間は少し土を盛り上げたような路面の線路となっています。これは、このあたりがちょうど砲兵工廠のあった場所で、わざと高架にしないことでスパイの行き来を妨げ、機密が漏れるのを防いだという経緯があります。大阪には何気ない日常の中に「戦争の跡」が残っています。

 今回は、昨年12月、秋田市で生活保護利用者が土地付き住宅を担保に都道府県社会福祉協議会(以下、社協という)からお金を借りるよう指導を受けたことを不服として不服審査請求を秋田県知事に行い、県が指導を却下したという話題、不動産担保型生活資金貸付制度、いわゆる生活保護版リバースモーゲージに関して少し触れたいと思います。

 リバースモーゲージとは、元々は高齢の富裕層向けに、自宅を担保に毎月一定額を生活費として融資し、高齢者が亡くなった時に自宅を売却し、融資を返済するという制度です。日本では、東京都武蔵野市が1981年に初めて導入しました。社会福祉に関連するところでは、武蔵野福祉公社が有料在宅サービスを導入し、その際自宅を担保にサービスを利用できるよう、この制度を導入しました。

 この制度を生活保護にも利用できないかと考えた厚生省は、1987年12月25日に社会局長の私的懇談会である「生活保護制度運用研究会」が「不動産保有者に対する生活保護のあり方について」を報告しました。1

 この頃はちょうどバブル期で、特に都市部の土地が高騰し、①生活保護利用者が土地家屋等を所有することは、一般世帯の土地家屋の取得の困難さと比較し不均衡であること、②土地付き住宅を売却することで生活保護の利用を抑えることができるのではないか、と考えられました。しかし、1990年に入ってバブルが崩壊したのもあり、結局導入には至りませんでした。ところが、2006年末になって、この制度を65歳以上の者、配偶者がいる場合は配偶者も65歳以上の生活保護利用者または要保護者(生活保護を必要とする人)へ2007年度から適用することが浮上しました。具体的には、社協が融資先となり、前述の要件の生活保護利用者または申請者が土地付き住宅を所有している場合、資産鑑定を行い、鑑定額500万円以上の場合、生活保護を利用する前に社協が毎月生活保護費相当を融資し、その間、生活保護は利用できません。鑑定相当額の7割程度を融資終了後、生活保護を利用、生活保護利用者が亡くなった後、社協が土地付き住宅を処分し、融資分を回収するというものです。

 もともと生活保護制度には「資産等の活用」を優先させる「補足性の原理」が法に盛り込まれており、実際に使用されていない土地などがあれば処分を求められることがありますが、法の目的の一つである「自立の助長」の観点から、家族人数、部屋数等を考慮して、特段高額な住居でなければ売却することは求められません。ですので、鑑定額500万円というのが本当に高額なのか、専門家の間では疑問視されています。

 その他に、この生活保護版リバースモーゲージには問題点がいくつか指摘されています。
 1点目に、資産鑑定額500万円以上といっても、そのような土地付き住宅に住んでいる生活保護利用者は非常に少ない点です。ある大都市では、評価額500万円以上の住居を有している人は20数世帯と言われ、ある地方では、広い土地を所有していても買い手がいないだろうと判断されることもあるとのことです。
 2点目に、該当者が少ないことに関連して、このような制度を導入して、本当に生活護費の抑制につながるのかという点です。むしろ鑑定や手続き等含めて無駄な出費のほうが増えるのではという意見もあります。
 3点目に、社協サイドから見て、本当に貸付額を回収できるほど土地付き住宅の鑑定額が維持されるのかという点です。バブル崩壊だけでなく、リーマンショック以後、住宅価格が下落していることもあり、社協が債権回収不可能になる可能性が出てきます。
 4点目に、実際に居住し、生活を営む場が「資産」としてみなされ、生活の基本的基盤であり、人権保障の要であることを考慮されていない点です。
 今回の秋田市の処分は、別居している障害を持つ子どものことを考慮せず、家を担保にお金を借りないと生活保護を廃止するという指導が繰り返され、それを不服として訴えたため、明るみに出ました。

 リバースモーゲージ制度は、冒頭でも述べましたが、元々はお金持ちの人を対象にした制度です。それを最低限度の生活を営んでいる生活保護利用者や要保護者に適用させること自体無理があると思いますし、リバースモーゲージ云々の前に、そもそも住まいとは何なのか、4点目の問題点を特に再考する必要があるのではないかと思いました。

 


1 『生活と福祉』誌には報告要旨が掲載されている。『生活と福祉』第381号、全国社会福祉協議会、1988年1月1日発行、p30~33

                金沢星陵大学非常勤講師 冨家 貴子