「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

06 Oct

少しずつ暑さも和らいできました。私はといえば、いろいろあって体調を崩してしまいました。 

 医師の勧めもあり、体調を整えるため、今は時間があれば20~30分ほど歩くようにしています。いろいろと考えながら歩いてしまうのですが、少しはすっきり?とした気分に一瞬だけなります。それにしても、太平洋側の地元大阪と違い、日本海側は何でこんなに雨が多いのか・・・。うっかりすると、散歩するチャンスを逃してしまいます(あるテレビ番組によると、石川県は日本一雨の降る日が多い所だそうです)。

 さて、先月書きました、大阪府・大阪市の生活保護制度に関する国への提言について、事務局の方からご意見をいただき、なるほどなあと思いましたので、事務局の方のご意見を基に、この提言に関してもう少し書いてみたいと思います。

 一つは、大阪府・大阪市版「ワークフェア」政策ではないかということです。「ワークフェア」に関する文献をあまり読みこなしていないので、正確なことがいえるかどうか自信はありませんが、イギリスのブレア元首相のブレーンであった社会学者のアンソニー・ギデンズ氏が、『第三の道』で述べています。アンソニー・ギデンズ氏は、既存の福祉施策が、大量の失業や家族形態の変化などに対応できなくなっている、そのような人たちが社会から排除されているとして、「ワークフェア」を打ち出しました。社会保障と就労を権利・義務関係に置き換え、社会保障政策を、再び労働市場に戻す政策へと変えていきました。いったん労働市場から排除された人たちを再び労働市場に戻す政策であることから、トランポリン型の政策ともいわれています。

 しかし、これに対して異議が唱えられています。第一に、社会保障給付と就労を権利・義務関係に位置付けることの妥当性です。働けようが働けまいが、社会保障を受ける権利は基本的人権としてどの人にも等しく認められている権利です。就労を、社会保障を受ける権利に対する義務だと強調すると、その人の基本的人権を侵害する恐れが出てきます。また、権利・義務関係に置き換えると、何らかの理由で働けない人はどうなるのかという議論も出てきます。

第二に、労働市場が労働者の生活を保障できる環境にないまま人々を労働市場に戻してしまうことが、その人の最低限度の生活を本当に保障することになるのか、最低生活保障が本当に保障されているかどうかの問題が出てきます。日本でいえば、「健康で文化的な」最低限度の生活が十分保障されないまま再び不安定な労働市場に戻してしまうことが妥当なのか、という議論になります(この点については、前回書きました)。

 私は働くことに関して、別に働かなくてもよいとは思っていません。人間は集団の中で互いを認め合い、成長していくものだと思っています。その意味で働くことは重要なことです。ただ、この「ワークフェア」政策は、本当に気をつけないと、その人の基本的人権を侵害し、行政自らがその人をさらに社会から排除してしまう危険性がある政策なのです。

 もう一つのご意見は、これだけ稼働可能層の政策を打ち出していながら、生活保護世帯に占める稼働可能層は少ないのに、本当に生活保護費を減らす効果があるのかということです。ご意見の通り、日本の生活保護制度は、稼働可能層が非常に少ないことに特徴があります。そして、高齢者世帯が非常に多いことです。他の先進国の生活保護世帯の分類では、稼働可能層が多くなっており、高齢者世帯は少なくなっています。それは、高齢者は基本的に年金で保障されているからです。日本は現在の生活保護法の基となった明治期の恤救規則のときから徹底して稼働層を排除してきました。そして、国民年金は25年という世界的に見ても長い保険料納付期間となっているのに、未だに老後の生活を十分保障する金額とはなっていません。他の国では保険料納付期間は長いところでも10年程です。ちなみに、高齢者世帯が増加していることも大阪府・大阪市の提言では指摘され、別制度の創設が提言されています。年金制度とは別制度になるので、高齢者にとっては、結局何らかのスティグマを抱かざるを得ないでしょう。それよりも、現行の年金制度をきちんと改善するほうがよいと思うのですが。

 大阪府・大阪市版生活保護制度に関する国への提案を読んで思ったことをざっと書いてみましたが、東京都の特別区長会も同じようなことを国に提案していることが明らかになりました(もっと明らかに「有期保護」と打ち出しています)。

 生活保護を利用する世帯は確かに増加しています。しかし、厚生労働省の発表では、2004年度の全国消費実態調査集計を基に捕捉率を推計すると、日本の場合32%程にとどまるとされています。つまり、生活保護が必要な世帯のうち68%は何らかの理由で利用できていないのです。ちなみにイギリスの捕捉率は87%ぐらいです。過去の「適正化」政策が無ければ、生活保護利用世帯数は、本当は以前からもっと多く数字に表れていたと思います。1960年代に公表しなくなった捕捉率を公表し続けていれば、対応も違ったものになったのかもしれません。

 これらの提言は、新しい問題ながら、実は日本の生活保護制度の古くからの問題点を引きずったものかもしれません。

         金沢星陵大学非常勤講師 冨家 貴子