「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

02 Dec

 政権交代からはや3か月が過ぎようとしています。現在は来年度の予算要求のための「仕分け作業」をめぐって各方面から批判や意見が出されています。

 

 この「仕分け作業」の前、10月20日に、厚生労働省は政府の正式な見解として日本の貧困率を公表しました。この貧困率は、相対的貧困率と呼ばれるもので、OECD(経済協力開発機構)が加盟国の貧困率を公表する際に使われるものです。具体的には、世帯の可処分所得(税などを差し引いた所得)を所得順に並べた時に、中央値の半分を下回っている世帯を貧困とみなすものです。

 この方法を用いて調査した結果、2006年度で15.7%の世帯が貧困な状態にあることが分かりました。相対的貧困率の国際比較では、OECDが発表した加盟国の中でメキシコ、トルコ、アメリカに次いで4番目に高いものとなっています。また、この発表の後、11月13日に子どもがいる世帯のうち一人親世帯の相対的貧困率が発表され、それは何と54%にのぼりました。OECDに加盟する先進国30カ国で最もひどい数字です。
 
日本の相対的貧困率15.7%は、人口では約2,000万人にのぼるといわれています。日本の人口が約1億2000万人なので、6人に1人が貧困だということです。派遣労働者の急速な増加、賃金切り下げなどが広がる中、ここまで深刻な状態になっていることにびっくりしました。そして、子どもはより深刻な状況に置かれていることに再度びっくりしました。
 
 今回の調査は生活扶助基準を貧困ラインとして計算していませんが、相対的貧困ラインは生活扶助基準に近い数字といわれています。何らかの加算がつく場合、加算は生活扶助の一部ですので、生活保護が必要かどうかの判断基準に加えられます。つまり、加算がつく場合は貧困ラインが引きあがるのです。しかし、働いている人に適用される勤労控除(賃金のうち一定額と必要経費(交通費など)は控除され、残りを収入認定する制度)は生活扶助基準の一部ではないので、生活保護が必要かどうかの判断基準、要否判定には入りません。つまり、働いている人の場合、生活扶助基準のみで計算するので、貧困ラインは引きあがらないことになります。仮に要否判定の際、生活扶助基準に勤労控除を含めると、貧困な人はさらに多くなることが考えられます。そうすると、子どもを抱えながら働いている一人親家庭の場合、12月に復活するといわれている母子加算と勤労控除を含めたものを基準にみると、子どもの貧困は相対的貧困率より高く出るのではないかと思います(現在、一人親家庭の就労促進費が出ていますが、母子加算の方が金額的に高いので、貧困ラインは確実に引きあがります)。
 
 そこで、私の疑問はより一層強くなります。今回母子加算の復活が多くの方の努力で実現したのですが、その前に、厚生労働省は社会保障審議会福祉部会「生活保護の在り方に関する専門委員会」(以下、「委員会」)の後、母子加算の廃止を強引に進めました。委員会では、母子家庭の第1-10分位や第1-5分位の収入階級にある母子家庭の生活扶助相当額と生活扶助基準を比較しました。一人親家庭の相対的貧困率は54%です。第6-10分位や第3-5分位の収入階級でも貧困な状態にある世帯が含まれることになります。そうなると、委員会で生活扶助基準との比較対象としたデータはすでに貧困な状態にあるのです。勤労控除のことを考えると、母子家庭の第6-10分位や第3-5分位の収入階級はすでに貧困であることが考えられます。今回の日本の一人親家庭の相対的貧困率の発表は、委員会では生活扶助基準と貧困世帯とを比較したことを証明するものです。貧困世帯と比較して、生活扶助基準を引き下げることを目的としたといっても過言ではありません。
 
 日本では、1960年代途中から捕捉率(生活保護を利用する必要のある人のうち、何人が生活保護を実際に利用しているかを表すもの)を計算していません。今回の相対的貧困率を仮に生活保護基準とみなすと、現在生活保護を利用している人は約160万人ですので、データに2年のずれはありますが、単純に計算しても捕捉率は8%となります。生活保護を利用する必要のある人のうち、8%しか生活保護を利用していないことになるのです。
 
捕捉率を明らかにしなくなった1960年代に生活扶助基準の参考としたのは第1-10分位の収入階級でした。この当時は、この収入階級の消費支出の伸びが著しかったので参考にしたという経緯がありますが、捕捉率を考えると、生活保護基準以下で生活している世帯を相当含めた収入階級と比較しているのではないかと思われます。日本は、この時期にエネルギー転換政策を行い、多くの炭鉱が閉鎖され、炭鉱地帯に住む世帯の生活保護を利用する割合が高くなり、生活保護を利用できるのに利用させない、いわゆる「適正化」を行っていたからです。
 
 今回発表された相対的貧困率自体にも問題(全体の収入が減ると中央値が下がり、貧困ラインも下がる)はありますが、これまでの生活保護基準の検証は妥当だったのか、問題を投げかけるものになると思いました。
金沢星陵大学非常勤講師 冨家 貴子