「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

25 Sep

 7月に東京で「カウンター越しの対立を超えて」という集会がありました。東京で開催されたため、お願いして資料を送っていただきました。それを読んでふと思ったことがありました。

 

 「生活保護」と聞くと、申請侵害(いわゆる「水際作戦」)や不適切な指導のことをよく耳にしますが、生活保護を担当する課の職員(現業員、生活保護ケースワーカーともいわれます。公務員です)の現状はあまり、いや、ほとんど知られていないのではないかと思います。私の経験も交えながら、知りえる範囲で、カウンターの内側にいる生活保護ケースワーカーが今どうなっているのか考えていきたいと思います。

 

 1999年の地方分権一括法の成立、2000年の社会福祉事業法の「改正」により、生活保護担当職員1人当たりの担当ケース数は80ケースを「法定数」から80ケースを「標準」にすることに変わりました(他にも「改正」されたことがあるのですが、今回はこの問題のみ取り上げたいと思います)。担当ケース数が「標準」になったことで、1人80ケース以上を持つことが可能になったのです。私は、「法定数」の80ケースでも担当数としては大変多いと思います。相談援助関係のお仕事をされている方であれば想像しやすいと思いますが、生活保護ケースワーカーは80件を訪問し、助言・指導を行い、職場に戻ったらケース記録の作成、生活保護費の計算をしなければなりません。必要ならば、検討したいケースについてケース会議を開きます。福祉事務所によって違うかもしれませんが、面接担当に当たった場合、生活保護の申請を希望する方の面接を行わなければなりませんので、それだけで1日とられることもあるようです。きちんと保護行政を行っているか監査もありますので、監査前には準備で忙しいと思います。この他にも細かな事務作業等あるのだと思います。

 

カウンターの外側にいる私が見ても、これだけの業務はこなすのは大変だと思います。80ケースでも大変なのに、担当ケース数の上限がなくなったのです。しかも、公務員の数は減らされています。

 

大阪の施設に勤めていたとき、利用者が「福祉事務所のケースワーカーと話がしたい」というので、ある福祉事務所に電話連絡をとったことがあります。利用者の中には家族がいない、または不明である、家族関係が悪い、または家族が遠くにいて会えない、という方がいらっしゃるので、そのような利用者にとって福祉事務所の担当ケースワーカーは、施設の職員以外で相談できる大切な人なのです。その時電話口に出たのは違うケースワーカーでした。事情を話すと「忙しいのでそのような細かな対応はできない」と言われました。おそらく施設から遠い場所にある福祉事務所ということもあり、そのようなことをおっしゃられたのかも知れませんが、私も思わず「それがそちらの仕事ではないのですか」と言ってしまいました。その後、利用者の担当ケースワーカーからお詫びの電話があり、そのときに「あの方は、ホームレスの方を100件以上もっているのですよ」と話されました。それを聞いてびっくりしました。私もその方の事情を知らずに思わず言ってしまったことに申し訳ない気持ちになりました。

 

結局、数日後その利用者の担当ケースワーカーはお忙しい中、近くの病院に入院されている方の面会の帰りに施設に寄られ、利用者の話を聞いてくださいました。

 

このように、細かに対応してくださったケースワーカーも、ずっとその課で仕事ができるとは限りません。「異動」というものが上記の問題点の上にのしかかります。

 

どのような仕事でもいえることかもしれませんが、1つの仕事を一通りこなすのに3年はかかると思います。一通り仕事がこなせるようになり、利用者の特徴や対応の仕方、解決しなければならない課題が見えてきたころに異動になるのだろうと思います。異動は、一方ではその方の興味や関心のある課に移ることができ、また、いろいろな可能性を確かめることもできるよい面があるのですが、経験を積んでいくことが難しい面もあるかと思います。

そこで、経験を積んだベテランの生活保護ケースワーカーがどのような仕事をされたのか、簡単に紹介したいと思います。

 

施設の利用者の子どもさん(子どもさんは違うところで暮らしています)が行方不明になったことがありました。誰に連れ去られたのかは推測できたのですが、どこに連れ去られたのかは分かりませんでした。その時、利用者の実施機関の担当ケースワーカーは新しい方に変わっていたのですが、その福祉事務所の保護課長が利用者の前担当者であったこともあり、「以前その方にかかわっていたので、また、難しい問題なので、私が引き受けます」と、子どもさんの問題を引き受けてくださいました。その後、しばらくしてから子どもさんは無事保護されました。どのようにして子どもさんの居場所を突き止めたのかは不明ですが、利用者の担当を長くしておられたことと様々な経験から、いろいろ連携を取りつつ子どもさんを捜されたのだと思います。

 

福祉事務所の生活保護ケースワーカーは経験年数や性格も一人ひとり違いますので対応の仕方もそれぞれ違うと思います。また、様々なケースがあり、すべてのケースが一様に大変とは言えません。しかし、前述したような細かな対応をしようと思えば、80件でも大変だと思わざるを得ないのです。それを国は80件以上持つことを可能にしたのです。

 

もちろん、現在取り上げられている福祉事務所の問題、特に生活保護の運用面の問題は担当ケース数が減ったからといって解決するものではありません。しかし、一人ひとりのこれからの生活を細かにみていき、援助していこうと思えば、現在の担当ケース数は妥当なのか、疑問に思わざるを得ません。

金沢星陵大学非常勤講師 冨家 貴子