「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

26 Jun

今回も、前回に引き続き、全大阪生活と健康を守る会の方からいただいたアンケート集計の内容を少し紹介したいと思います。

 

 今回は、前回お知らせしたように、生活保護費での実際の生活を見ていきたいと思います。
 
 生活保護を利用していない多くの方は、最低限度の生活保障として生活保護費がいくら支給され、そして、その生活保護費でもってどのような生活を送ることができるのか、ご存知ないかと思います。そこで、まず具体的に生活保護を利用した場合の生活費がどのくらいなのか明らかにしたいと思います。手元に2006年の生活保護手帳しかありませんので、申し訳ありませんがこれで明らかにしたいと思います。金額は今とほとんど変わりないと思います。
 
 生活保護費は8つの扶助に分かれています。生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、介護扶助、生業扶助、出産扶助、葬祭扶助です。日常の生活費を保障する生活扶助は1級地―1・2、2級地―1・2、3級地―1・2と、地域の物価等を勘案してとのことで6つの級地に分かれています。また、年齢・世帯人数によっても金額が違います。大阪も地域によって級地が違います。冬季アンケート集計結果で最も多い年齢層である60~69歳かつ単身で障害や重度の病気のない世帯を想定して計算した場合、大阪市など1-1級地では、冬季加算(11~3月の間支給)を入れると1ヶ月82,620円です(12月に期末一時扶助が支給されますが、一時的なものなので、ここでは省きます)。阪南市や能勢町など3-1級地では、67,740円です。これに介護保険料を支払うための介護保険料加算が加算されます。以前は、70歳以上には老齢加算、ひとり親世帯には母子加算が支給され、それ以外にも、大阪府・大阪市は生活保護を利用しているすべての世帯に夏と冬に地方自治体独自の福祉的給付金として見舞金を支給していましたが、これらはすでに廃止されました。したがって、物価高にも関わらず生活費は減っていることになります。住宅扶助は厚生労働大臣によって金額が定められているのですが、それではあまりにも低いので、それぞれの地域の事情を勘案して特別基準が定められています。大阪の場合、1-1級地は単身世帯で42,000円まで、3-1級地で30,800円までです。医療費は医療扶助でもって保障されます。働いていると、収入から少し控除して残りは収入認定され、収入認定分は毎月の生活扶助から差し引かれます。年金等ある場合はその金額がそのまま収入認定されます。したがって、他の収入があったとしても、最低生活費はほぼ生活扶助の金額に縛られることになります。これで1か月間過ごさなければなりません。
 
貯金については、生活保護を利用する前に1か月の生活扶助費の半分までなら認められますが、これは、生活保護の申請を福祉事務所が受理した後、生活保護開始の可否決定を14日以内に行わなければならないからで、14日後に生活保護が開始され場合、手持ち金は0円ということになります。したがって、貯金は生活扶助を節約でもしない限りできません。布団、家具や電化製品などの家具什器は、生活保護開始時、必要と認められる場合、布団は18,100円まで(新規購入の場合)、家具什器は24,500円まで(真にやむを得ない場合は39,200円)支給されます。それ以降は、災害などよほどの理由がない限り、これらの費用は出ません。すべて生活扶助から賄わなければなりません。
 
一般世帯の場合、いざという時の出費に備えて貯金など何らかの貯えがあり、1か月の家計が赤字になっても何とか補てんできますが、生活保護を利用している世帯はよほど切り詰めて貯金しない限り、収入がそのまま支出の限度額となる、家計が非常に硬直している状態なのです。
 
 これを前提に、実際の生活を見ていきます。
 アンケートには、「生活保護費の中で節約しているもの」の項目として、食費、衣料費、入浴、交際費(冠婚葬祭費)、文化・教養費(新聞・映画・本など)が挙げられています。その中で一番多いのは食費で、94.1%です。その次は衣料費で、90.6%です。昨今の不況で、食費や衣料費を節約しているのは一般世帯も同じだ、と思われる方は非常に多いと思います。新聞やニュースでも、多くの方が食費や衣料費を節約していることが報道されています。どの世帯でも食費や衣料費が真っ先に節約の対象になることには理由があります。それは、個人の裁量が利くからです。安いものや違うものに置き換えることが可能な費目なのです。同時に、これらは人間が生きていく上で欠かせないものでもあります。ある大学の先生が「人間の再生産にとって一番大切なものを節約せざるを得ないことほど貧しいことはない」というようなことをおっしゃっていましたが、本当にその通りだなと思います。食費や衣料費に関する自由回答の内容は、「スーパーの閉店間際の半額セール時に買い物に行く」「衣類はバーゲン時に購入する」などというものでした。中には「1日2食、そのうちの1食はお茶漬け」「安いものを買って2回に分けて食べている」というものもありました。
 
 それらの次に節約しているものは文化・教養費で、81.6%です。しかし、これに関する自由回答は数例しかありません。「食べるだけでなく、もう少し自分らしく生きたいが、削るところが多くそこまでの余裕がない」という自由回答が表わしているように、すでに節約してしまって、これ以上節約の仕様がないという方が多いのではないかと思われました。
 
生活保護を利用していない多くの世帯は、「節約する」というとだいたいが食費、衣料費ですが、生活保護を利用している世帯はその他にも節約している費目があります。それは、交際費(冠婚葬祭費)で、81.8%です。交際費は社会関係を維持するために必要不可欠な費用です。生活保護を利用している世帯は、食費や衣料費だけでなく、文化・教養費、交際費と、あらゆる費目を同時に節約しているのです。これが一般世帯の節約との大きな違いではないかと思っています。自由回答の内容は、「お金がない。義弟の奥さんが死去したが、その葬式に出ることができなかった」「墓参りに行くことが出来ない」「今年、姉と弟が亡くなりましたが、人並みの付き合いができずに嫌な思いをしました」「夏期・歳末一時金を復活させてください。孫たちに少しは小遣いをあげたい」「付き合いも今までのつながりもあって、そんなにぷっつり切れない。お見舞い、お香典も5000円以下ではできない。そういう時は、食費、電気、銭湯を節約するしかない」など、社会関係を維持するためにあらゆる出費を控えなければならない、社会関係が維持できず、このままでは生活保護を利用している世帯が孤立してしまうことが懸念されるものでした。
 
 また、入浴回数の少なさも一般世帯とは違う特徴ではないかと思われました。風呂のある世帯は回答全体の66.8%、無い世帯は31.3%(無回答1.9%)で、風呂のない世帯が3割を占めており、生活保護を利用している世帯の住居の築年数が古い、または風呂のある住居に住むことができないのではないかと考えられます。そして、風呂のある世帯の場合、最も多い入浴回数は週3回で、30.8%です。週1回・2回と合わせると、ほぼ6割になります。半数以上の方が毎日入ることができないでいるのです。これは、光熱水費の節約のため、風呂に毎日入ることができない状態にあると思われます。毎日入浴している世帯は12.4%で、1割強です。風呂のない世帯の場合、最も多いのは週2回の33.9%で、週1回と合わせると50%を超えてしまいます。毎日入ることのできている世帯は4.3%しかありません。これは、公衆浴場の入浴代が高いためだと思われます。自由回答の内容は、「風呂の水は1週間変えず、入るとき水を足しています。風呂の水はトイレタンクの中に入れて利用します」「お風呂の入浴回数を増やしたい」「風呂に入らない場合は匂いがします。友達もすごくいやな匂いをしますので、風呂券を無料で発行してください」など、単に入浴できないだけでなく、入浴後も節約のことを考えなければならないこと、入浴できないことが交際にも影響することが窺えるものでした。
 
 その他、60歳以上の高齢者世帯が集計の半数以上を占める中、「暖房費を節約せざるを得ない」「寒くなったら布団にもぐる」という自由回答が目立ちました。風呂に入って体を温めることもままならない中、暖房費も節約せざるを得なくなると、健康状態にも影響を与えることが懸念されます。
 
 世界的な不況の中、節約するのが当たり前のようになっていますが、私たちが保障されている最低限度の生活の内容は、ここに挙げた自由回答が示すように、あらゆるものを節約しなければならないだけでなく、それによって社会関係の維持も困難になるというものなのです。近年、単に経済的に貧困だけでなく、あらゆる制度から排除され、最終的には社会からも排除され、孤立してしまう状態をも貧困であると、貧困の概念自体が見直されていますが、そのような貧困の概念と憲法25条で保障されている「健康で文化的な」最低限度の生活の内容との関係が本当に十分議論されているのか問い直す必要があることを、このアンケート集計は示しているのだと思いました。
金沢星陵大学非常勤講師 冨家 貴子