「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

26 Mar

 先日、金沢の研究会で、生活保護を受けている母子家庭は生活が安定している、との話になりました。

 生活が安定しているとは、収入が安定しているだけでなく、収入が安定することで母親や子どもが精神的にも安定するという意味です。

 この話を聞いたとき、私が大学院に通っていたとき大変お世話になった、現在でもお世話になっている女性のことを思い出しました。仮にIさんとしておきます。以下は、簡単ですがIさんが私に話してくださったことです。
 
 Iさんは夫と子どもとで暮していましたが、夫のギャンブルが元で離婚しました。Iさんは子どもを抱えて生活に困り、周りの方の支援を受け、生活保護を受けることになりました。生活保護を受ける世帯には、その世帯の担当ケースワーカーが自宅を訪問して生活の相談や助言を行います。もちろんIさんの世帯にもケースワーカーが訪問しました。そのときの担当ケースワーカーが大変親切な方だったそうで、子どものことだけでなく、襖の破れのことまで気を配ってくださったとのことです。
 
 Iさんの生活は少しずつ落ち着いてきます。そして、Iさんは仕事を探し、保育園の非正規の調理員として働きます。しかし、非正規職員では子どもを育てていくのは大変です。そこで、Iさんは園長に正職員にしてほしいと頼みました。その結果、常勤の調理員として働くことができるようになったそうです。
 
 現在、Iさんは生活保護を受けることなく調理員の仕事を続けています。Iさんの子どもは一社会人として働いています。
 
 Iさんの子どもは私と年齢が割合近かったので(私の方が年上です)、生活保護を受けていたのは随分前の話になりますが、普段はとても快活なIさんが大変苦労をされていたのだと思うのと同時に、今のIさんがあるのは、生活保護を受けて生活を一旦安定させたことが大きいのだろうと思います。
 
 現在、「子どもの貧困」が大変な問題となっています。学費や学校の教材費、給食費が払えない、健康保険証がなく医療機関にかかることができないなど、次世代を担う子どもの生命の再生産さえも脅かされている状況にあります。しかし、よくよく見ると、「子どもの貧困」は「親の貧困」、つまり、働く者の貧困問題でもあるのです。
 
 特に一人親家庭、更に言えば一人親が女性の場合、結婚退職するなどして労働市場をしばらく離れると、何か資格でもない限り、同じような労働条件で労働市場に戻るのは非常に困難です。子どもを抱えているとなると更に不利になります。多くの女性は派遣労働やパート労働に就かざるを得ません。そうなると賃金は低く抑えられ、パートを掛け持つなどしなければならない状況に置かれることもあります。単に金銭的に困窮するだけでなく、親も働き詰めで精神的なゆとりを失くし、また、子どもと関わる時間が極端に少なくなることで、子どもも精神的な落ち着きを失くしていきます。母子家庭の場合、児童扶養手当の支給や保育所・公営住宅への優先入所・入居などありますが、それでも親子が生活していくには不十分なのです。
 
 他法他施策が不十分であれば、後は生活保護しか生活を保障する制度はありません。近年、一般低所得母子世帯の生活費よりも生活保護を受けている母子世帯の最低生活費のほうが高いという議論がありますが、まともに働いても暮せない賃金しか得られない労働市場から目をそらすための、問題の本質を誤らせる議論だと思います。
 
 少し話がそれましたが、1950年に改正された生活保護法、いわゆる新生活保護法に至る議論の中に、母子家庭に触れた議論があります。昔の議論ですので、今の人にとっては捉え方が違ってくるかもしれませんが、Iさんの話を思い出すと私はこの議論のことを思い出し、また、母子家庭の生活の安定とは何かを考えさせる議論でもありますので、簡単に紹介したいと思います。
 
 生活保護法第9条に「必要即応の原則」というものがあります。これは、年齢や性別、健康状態や世帯の実際の必要を考慮して、生活保護の種類や方法を決定しなければならないという、生活保護の原則の一つです。この原則の議論のきっかけとなったのは、乳幼児を抱える母親に対する保護のあり方を巡っての議論でした。働ける者はとにかく働かせるという生活保護の指導方針が暗黙に採られていた中(現在でもそうですが)、乳幼児を抱える母親と授産場とを結びつけることが行われていました。しかし、GHQ(連合軍総司令部)より、「・・・(中略)・・・母親にとつて第一義的な任務である乳幼児の養育を差し置いてむやみに働くことを奨励或いは強制する現在の方針は再考を要する。」(ママ)[1]と指摘されます。そして、母子家庭の母親は一般家庭の母親よりも子育てに労力を要するとして、母子加算が創設されました。母子加算を積算した生活保護基準でもって生活保護の要否判定を行いますので、今までの基準では生活保護を受けられなかった母子家庭も生活保護を受けられるようになります。つまり、日本では貧困ライン=生活保護基準と捉えられていますので、貧困ラインが引き上がり、今まで貧困ではないとされてきた母子家庭が貧困と見なされ、その生活を国が保障しなければならないとされるのです。
 
 現在、生活保護では母子加算廃止の変わりに一人親家庭の就労支援費を支給するなど、貧困ラインを引き下げ、母子家庭をいかに就労に向かわせるかという政策が採られていますが、Iさんのように一旦生活を安定させ、親子で生活が営める条件で求職活動をしないと、生活が不安定なまま元の労働市場に放り出されてしまう恐れがあると思っています。
金沢福祉専門学校教員 冨家 貴子


[1] 小山進次郎『改訂増補 生活保護法の解釈と運用(復刻版)』全国社会福祉協議会、2004年、p209