「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

24 Sep

―生活保護制度の医療扶助は今・・・②―

 生活保護制度の医療扶助には、通院、入院、退院、転院などにかかる交通費を支給する「移送費」制度があります。

 

  この制度は、医療扶助の目的である、疾病による貧困と、貧困による疾病の防止と救済を基に 、交通費を支給することによって、必要な医療を受けることができるようにし、交通費の支出によって最低生活基準を下回らないようにするものです。

  この制度を利用するには、原則として、生活保護受給者が福祉事務所に申請し、申請用紙(給付要否意見書(移送))に必要事項を記入し、医療機関にも必要事項を書いてもらい、福祉事務所に提出します。往診の場合は、往診にかかる交通費、医療機関の自家用車の場合は燃料代が支給されます。アルコール依存症など、依存症のための自助グループに参加する場合も移送費が支給されます。

  ところが、厚生労働省は、2008年4月1日付の通知で、この移送費制度自体を「A 国民健康保険の給付範囲 」「B 医療扶助による例外的な給付」による支給とし、Bの「例外的」な取り扱いとして、①身体障害などにより電車バスなどで通院するのが困難な場合、②僻地などで電車・バスなどを利用しても交通費が著しく高額になる場合、③検診命令 により検診を受ける際、交通費が必要になる場合、④医師の往診などで交通費、燃料費が必要になる場合、に限定しました。そして、これらは原則として、それぞれの生活保護受給者の福祉事務所管内の医療機関に限る、というものです。②の移送費が高額になる場合については、どれだけ交通費がかかれば「高額」となるのか、明確な基準が示されていません。

  そして、この通知によって、長年診察してもらってきた医療機関にかかることができない、複数の医療機関にかかっており、交通費が捻出できない、などということが起こっています。薬物依存症の回復グループが発行している定期刊行物には、「ほとんどの福祉事務所管内には、薬物依存症の専門治療施設がなく、薬物依存症の方たちから治療へのアクセス権を奪っている」との声明が出されました 。また、読売新聞によると、「全国腎臓病協会は『生命を維持する人工透析の通院が保障されない可能性がある』と見直しを要望」したとされました 。7都道府県の福祉事務所の課長は、連名で今回の通知の「見直し」の意見書を厚生労働省に提出しました。

  これらに対し、厚生労働省は、移送費は生活扶助費に含まれているので問題ない、と述べています。しかし、今まで生活扶助に含まれなかったものが急に「含まれる」ことは到底考えられません。

  この移送費不支給問題のきっかけは、北海道滝川市での不正受給事件です。この事件は「滝川事件」と呼ばれています。ご存知の方も多いと思いますが、簡単に事件の内容を述べたいと思います。
 

  北海道の滝川市に住む、暴力団員の夫婦が介護タクシー会社と結託して、滝川市から札幌市への通院の際に「ストレッチャー型タクシー」を利用したという不正の領収証を発行し、2億3千万円を超える移送費を騙し取ったというものです。
 

  この事件には、行政側の問題点があります。①移送費を申請する際に、ストレッチャー型タクシーの必要性に関する医師の意見書を何度も提出させていなかった、②福祉事務所が医師から病状把握を行うのが遅かった、③介護タクシー会社の見積もりは数社必要なのに、1社分しかないにもかかわらず、それを認めた、などです。
 

  今回の移送費の制限は、これら行政のミスを見逃し、全てを不正受給のせいにして、きちんと移送費を利用している人にまで制限を加え、生活保護費の削減をねらうものだと思われます。移送費を必要とする方にとっては、生活扶助費の中から移送費を捻出しなければならないのですから、生活保護基準以下の生活を強いられることになります。
 

  前述の、多くの生活保護受給者の声や、市民団体などの働きかけによって、厚生労働省は、6月10日、移送費に関する今回の通知を「事実上撤回する」と発表しました。しかし、完全に撤回したとはいえません。通知そのものを撤回していないからです。そのため、福祉事務所によっては移送費が再び支給される、あるところでは支給されないままになっている、と福祉事務所と生活保護受給者の間で現在でも混乱が起こっています。

 私は、今回のことは、税制における医療費控除にも影響するのではないか、と思っています。医療費控除の際、通院等にかかった交通費も控除の対象として含まれますが、国民の最低限の生活を保障する生活保護制度において移送費が保障されないとなると、交通費が医療控除の対象から外されてしまう、または一定の制限が加えられるのではないか、と危惧しているのです。私の単なる考えすぎであればよいのですが。

金沢福祉専門学校教員 冨家 貴子