「生活保護」という言葉に、みなさんどんなイメージをお持ちですか。
 ポジティブかネガティブかと問われれば、ネガティブな印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。なぜでしょう。それは、生活保護に絡んだ話題の多くが「不正受給」、または「打ち切り」「水際作戦」など、生活保護を受けたくても受けられない、そしてその結果、「孤独死」が起きた、などというものばかりで、「生保のおかげで助かった」とか「生保があるから安心」などの話を一切聞かないからではないでしょうか。
 なんでそんなことになってしまっているのか。「健康で文化的な最低限度の生活を保障する」との憲法条文はどうなってしまったのか。生活保護をめぐる動向から探っていきたいと思います。

20 Aug
―生活保護制度の医療扶助は今・・・①―
 
今回は、医療費抑制政策の流れの中で、生活保護世帯の医療はどうなっているのかをみていきたいと思います。

  2008年4月1日、厚生労働省は保護課長通知を出しました。その内容は、①福祉事務所は、生活保護の医療扶助を受けている者に対して、医学的な理由がある場合を除き、後発医薬品を選択するよう求めること、②生活保護の指定を受けている病院や薬局に対しても、医療扶助を受けている者に後発医薬品の使用を促してもらうこと、③福祉事務所は、医療扶助を受けている者の処方箋を確認し、後発医薬品を選んでいなければ指導指示を行なうこと、④指導指示に従わない場合、保護の停止または廃止を検討すること、というものです。

 
 つまり、医学的な理由がある場合を除いて、医療扶助を受けている人は、後発医薬品を選ばなければ生活保護を打ち切りますよ、という通知なのです。そして、医療にかかる費用を抑えたいのです。
 
 厚生労働省は、後発医薬品の選択について、生活保護を受けている者には必要最小限の保障を行なうという、生活保護法の趣旨にのっとったものだ、と主張していますが、果たしてそうなのでしょうか。
 
 この問題を考える前に、後発医薬品について、ごく簡単に説明したいと思います。
 薬には、先発医薬品(ここでは以下「新薬」と呼びます)と後発医薬品(ここでは以下「ジェネリック」と呼びます)があります。新しく開発・製造されたものが新薬、新薬の特許が切れた後、新薬と同じ有効性が認められることが確認され、製造されたものがジェネリックです。
 新薬は治験(医薬品等の製造販売許可を得るための臨床試験)等によって薬の有効性、安全性等数多くの報告書を厚生労働省に提出しなければなりません。ジェネリックの場合、新薬で有効性や安全性は確認されたとして、新薬と同様の有効性が認められるかを重視するので、新薬のように多くの報告書を提出する必要はありません。そのため、新薬のように費用をかけずに製造・販売ができ、価格も新薬より安く設定できるのです。
 
 しかし、新薬と主成分が同じでも、他の成分は少し異なります。そのため、ジェネリックによっては、身体と適合しない場合があります。もちろん、逆の場合もあります[]
 
 厚生労働省は、今回通知を出したのは、医療扶助を受けている者は診察や投薬の自己負担がないため、ジェネリックを選択するインセンティブが働かないからだと述べています。しかし、2008年7月9日に行なわれた、「厚生労働省中央社会保険医療協議会 診療報酬改定結果検証部会」に提出された、「後発医薬品の使用状況調査報告書」(2007年実施)をみると、「後発医薬品への変更可」と医師が署名しても、調剤薬局が変更しなかった処方箋が7割以上を占めています[]。変更しなかったケースに対して、ジェネリックへの変更を進めるために必要だと考える条件を尋ねると、「薬剤師が患者に十分説明できるだけの時間や後発医薬品の備蓄コスト増に見合った調剤報酬上の評価」が半数強を占めています[]。詳しくは報告書を見ていただければ分かりますが、調剤薬局による、ジェネリック使用の問題点の自由回答をみると、○製薬会社からの提供資料が少なく、ジェネリックの説明や資料作成に時間がかかる割に報酬上の評価が低い、○ジェネリックを用意しても、それを使用する患者が少ないうえに、継続して来局するとも限らず、デッドストックになる確率が高い、○患者が納得できるような説明を行なうにはかなりの時間が必要であり、そうすると、他の患者を待たせてしまうことになる[]、○厚生労働省自身がジェネリックの安全性の確認等の問題を解決しなければジェネリックを勧められない等、調剤薬局側にもジェネリックを使用するインセンティブが働かない要因があるのです[]
 
厚生労働省は、欧米では医薬品のうち約半分がジェネリックとなっている、と述べていますが、これに関して、東邦大学薬学部臨床薬学研修センター教授の柳川忠二氏は3点指摘しています。その内容は、①ジェネリックの使用頻度が高い国は、1人の診察に30~50分かけて患者の状況を聞き出し、薬を処方している、②子どもの頃からの医療教育によって、患者が自ら薬を選択できる判断力を持っている、③1つの薬に対して、20~30銘柄のジェネリックが販売されている国は日本の他になく、日本の場合、薬剤師が情報を十分取得し、多角的に判断しないと患者に適した薬を提供することはできない、というものです[]。つまり、ジェネリックを選択する環境が日本と違い、整っているということです。
 
 今回の通知は、医療扶助を受けている人が単に医薬品を選択できないだけではありません。その人の身体状況に合った医薬品を提供する環境が十分に整備されず、医薬品に対する不安が解消されないままジェネリックを選ばざるを得ないとしたら、医療扶助を受けている人には、医療において重要な「インフォームド・コンセント(説明と合意)」が認められないという事態をも引き起こします。「医療差別」と言っても過言ではありません。しかも、「保護の停廃止」が常につきまとうのです。このことは、医療扶助を受けている人だけの問題ではありません。日本において、「誰もが保障される医療とはどのような医療なのか」が問われている問題だと思います。
 
<医療扶助>
 生活保護の8つの扶助の1つ。医療扶助を受けないと最低生活費を下回る場合、医療扶助のみ受けることもできます(これを「医療扶助単給」と言います)。内容は、健康保険の給付内容に準じます。眼鏡、義肢、装具等も必要と認められれば現物支給されます。入院時の生活費として、入院患者日用品費が支給されます(要件があります)。自立支援医療や結核などの公費負担医療が適用される場合は、公費負担医療が優先され、自己負担分を医療扶助から支払います。医療扶助自体の問題については、別の機会に述べたいと思います。
 
金沢福祉専門学校教員 冨家 貴子
 


[] 私事で恐縮ですが、腰痛の時服用していた筋弛緩剤をジェネリックから新薬に変更したら、薬疹が出たことがあります。
[] 200879日厚生労働省中央社会保険医療協議会 診療報酬改定結果検証部会(第18回)提供資料「診療報酬改定結果検証に係る特別調査(平成19年度調査) 後発医薬品の使用状況調査報告書」p14
[] 前掲、p25
[] 薬剤の説明や指導にかける時間は、初診の場合平均11.69分、2回目以降は平均5.84分となっている。前掲、p19
[] 前掲、p2729
[] 柳川忠二「ジェネリック医薬品の現状と課題」アボット感染症アワー、ラジオNIKKEI2006512日放送分 
 http://radio848.rsjp.net/abbott/html/20060512.html